コスモスの花

第37回コスモス文学新人賞
[童話部門]

コ ス モ ス の 花

 学校が終わるとミヨちゃんは、いつもマサオ兄ちゃんと一緒に帰ります。おうちまでまだ半分というところで、マサオ兄ちゃんは道のはしっこでキラキラ光る小さなものを見つけました。
「なんだろう?」
 お兄ちゃんは立ちどまって前かがみになり、それを拾いました。お兄ちゃんの手のひらには、小さな五円玉がありました。
「ちえっ」
 とお兄ちゃんが言うと、
「ミヨちゃんにあげる」
 と言って、お兄ちゃんはミヨちゃんの手のひらにのっけました。ミヨちゃんは一瞬うれしい気持ちがしましたが、少し考えています。(お巡りさんに届けないといけない)とミヨちゃんは思ったのです。お兄ちゃんに、そう言おうとしたら、お兄ちゃんはもうずっと先の方まで駆けていました。
 おうちに着いてから、ミヨちゃんはお母さんに相談しようと思いましたが、こんなことをお母さんにお話しするとお兄ちゃんにしかられるような気がしたので、だまっていました。

 ミヨちゃんはあくる朝、起きると、ポケットの中にその五円玉を大切にしまっておうちを出ました。学校ではいつもポケットの中の五円玉が気になっていました。ミヨちゃんは五円玉で大好きなキャラメルを買おうとか、いろいろ考えたりもしましたが、この五円玉はミヨちゃんのものではないということがわかっていましたから、いつまでもつかわずにいました。
 ミヨちゃんはほんとうは、お巡りさんに届けようと思っていたのです。でも、お巡りさんのいる交番まで行くには、大きなさくのない橋を渡らなければなりません。その橋はあぶないから決して渡ってはいけないと、ミヨちゃんはいつもお母さんから聞かされていました。だから、ミヨちゃんはあきらめていたのです。

 ミヨちゃんはお花が大好きです。仲良しのユキちゃんのお父さんが、お花屋さんをしているので、ミヨちゃんはユキちゃんにお願いして、この五円玉でお花の種を買うことにしました。

 ミヨちゃんは五円玉が落ちていたところに行きました。そこには草もなく、お花も咲いていません。ミヨちゃんは買ったお花の種をまき、上から土をやさしくかぶせました。もうお日さまが西にかたむいていましたので、ミヨちゃんはあわてておうちに帰りました。
「こんなにおそくまで、なにをしてたの?」
 お母さんは心配してミヨちゃんにたずねました。お母さんのほっぺは大きく膨らんでいました。

 あくる朝、ミヨちゃんはいつものとおり起きて学校に向かいました。ミヨちゃんのポケットの中には、もうあの五円玉はなくなっていましたから、ミヨちゃんはすがすがしい気持ちでいました。
 そのうちミヨちゃんのおうちの前から学校まで、きれいに舗装された道ができました。その道は学校への近道だったので、ミヨちゃんとお兄ちゃんはもう、むかしの道をとおることはありませんでした。
 それから、いくにちもいくにちも日がたって、ミヨちゃんはお花の種をまいたことを忘れていました。長かった夏休みが終わって、始業式の帰り、ミヨちゃんはお花の種をまいたことを思い出しました。ミヨちゃんは、遠まわりをして、むかしお兄ちゃんと一緒に歩いた道をひとりで歩きました。お花の種をまいたところをさがしましたが、あたり一面、雑草が生い茂っていて、ミヨちゃんにはそれがどこだったかわからなくなっていました。ミヨちゃんがあきらめて、とぼとぼと道の端を歩いていると、ずーっとずーっと向こうに、雑草にまぎれて、白いお花が咲いているのが見えました。ミヨちゃんは急いで駆け寄りました。 それはミヨちゃんがまいた、コスモスの花だったのです。花はミヨちゃんの頭の上で、ほほえんでいます。
 ミヨちゃんは道端に腰を下ろすと、コスモスの花が風にゆらりゆらりと揺れているのを、いつまでもながめていました。