ミヨちゃんと新聞

ミヨちゃんと新聞

 今日は日曜日です。朝から雨が降っています。お昼になってから、お日様が顔を出しました。ミヨちゃんはお父さんに近くの公園まで遊びに連れて行ってもらうことになりました。

 公園には近所のおじさんも来ていました。おじさんはベンチに腰をかけて新聞を読んでいました。
「こんにちは」
 ミヨちゃんはおじさんにあいさつをしました。
「こんにちは」
 おじさんもあいさつをしてくれました。でも、新聞から目をはなしません。お父さんもおじさんにあいさつをしてから、同じベンチに座り、新聞を広げて読み始めました。

 ミヨちゃんは滑り台をしたり、ブランコに乗ったりして遊びました。遊び疲れた頃、丁度夕食の時間になったので、お家に帰ることになりました。おじさんはまだ新聞を見ています。お父さんがおじさんにお別れのあいさつをしました。ミヨちゃんも、おじさんに、
「さよなら」
 と、あいさつをしました。おじさんも、
「さよなら」
 と、あいさつをかえしてくれました。けれど、ちらっとこちらに笑顔を見せただけで、またすぐに新聞に目を落としました。ミヨちゃんのお父さんも、ミヨちゃんが遊んでいるあいだ、ずっと新聞を読んでいました。
「新聞ってなんだろう」
 ミヨちゃんはいつも不思議に思っています。

 ミヨちゃんは絵本を見ながら食事していると、「お行儀が悪い」って、よくお母さんにしかられます。ミヨちゃんのお父さんは、食事をしながら新聞を読みます。でも、そんなお父さんに、お母さんは何も言いません。
「新聞だったらいいのかな」
 ミヨちゃんは夕食をしながらも、はやく絵本が見たくて仕方がありませんでした。

 夕食を終えると、お父さんは新聞を片手に居間に戻りました。畳の上にごろっと横になると、新聞を読み始めました。
 ミヨちゃんは絵本も好きだけれど、テレビの方がもっと好きです。テレビは絵が動くし、声や音だって出るからです。もうすぐ、ミヨちゃんの大好きなテレビ漫画が始まります。お父さんは疲れているのか、ぐーぐーといびきをかき始めました。今がチャンスです。ミヨちゃんはお父さんの枕もとにあるテレビのリモコンスイッチを、そーっと押しました。さっそく主題歌が流れて、これから楽しい漫画の始まりです。
「もう少し音を小さくしなさい!」  お父さんが目を覚ましてしまいました。ミヨちゃんは、もっとしかられるかと、びくびくしていましたが、お父さんはそう言ったきり、横になったまま、また新聞を読み始めました。
「新聞にはきっと、絵本よりも、テレビ漫画よりも、もっともっとわくわくするような、楽しいお話がいっぱいつまっているんだ」
ミヨちゃんには新聞が、捨ててはいけない、大切な宝物のように思えてきました。 ミヨちゃんはまだ新聞を読むことができません。早く大きくなって新聞を読めるようになりたいと思っています。

   ある日ミヨちゃんは、困った顔をして、お母さんにおねだりしました。
「ミヨちゃんね、お部屋がほしいの」
「お部屋がほしいって?」
 お母さんは首を傾げました。
「ミヨちゃんには、ミヨちゃんのお部屋が一つあるでしょ」
「でも、もう一つほしいの」
 お母さんはわけがわからず、ミヨちゃんと一緒にミヨちゃんのお部屋へ向かいました。ミヨちゃんのお部屋は二階にありましたから、太ったお母さんは階段を上るのが大変です。ふうふう言いながら、ミヨちゃんのお部屋の戸を開けました。
「きゃー!」
 お母さんはびっくりして、腰を抜かしてしまいました。大きな山がくずれるように、たくさんの新聞がお母さんの頭や顔をめがけて落ちてきたのです。ミヨちゃんのお部屋は新聞でいっぱいです。ベッドの上まであふれて、もうミヨちゃんの寝る場所がなくなっていました。ミヨちゃんが大切にしているお人形さんは、お部屋の壁と新聞の大きな山にはさまれて、なきべそをかいていました。このままではお人形さんがかわいそうです。
「ね、だから、ミヨちゃん、もう一つ、お部屋がほしいの!」
 ミヨちゃんはけろっとして言いました。