日 の 丸 べ ん と う

 良太は学校から帰ってくると、妹のみよちゃんにたずねました。
「きょうのべんとうのことだけど、いつもとかわったところなかった?」
「いつものとおり、黄色いたまごやきもあったし、みどり色をしたやさいもたくさん入っていたし。どうしてそんなこと聞くの?」
「ぼくのきょうのべんとうのおかずといったら、うめぼしひとつだけだったんだ!」
「きのうのばん、お母さんに口答えをしたからよ」
「でも、もっとひどい口答えをしたときだって、いつもとかわらなかったんだけどなあ」
 良太は合点がいきませんでした。
 夕方になって、お父さんがはな歌を歌いながらおうちに帰ってきました。なぜかとてもうれしそうです。
 みんながちょうどおふろをすませたとき、はたらきに出ていたお母さんも、大きな買い物のふくろをさげて帰ってきました。ふくろの中には、きょうの夕食のざいりょうが入っているのです。さっそく、お母さんは夕食のしたくにかかりました。するとお父さんは、
「つかれているだろうから、夕食のしたくはおふろをすませてからにしたらどうだね」
 と、いつもとちがって、とてもやさしくお母さんに話しかけました。
「きのうからさむけがするからおふろはやめておくわ」
 お母さんはかぜを引いたようです。妹がりょうりをてつだいました。妹はりょうりにかぎらず、お母さんのてつだいをよくします。良太は何もしません。お父さんはのんびりとばんしゃくをはじめました。ばんしゃくしながら新聞を見ていたお父さんが、
「きょうは七日か。そうか、きょうはけっこんきねん日だったんだ」
 とにっこりわらいました。
「あなた、何をおっしゃってるの。きょうは七日だけど、わたしたちのけっこんきねん日は来月の七日じゃないの」
 そう言いながらも、りょうりをするお母さんの手は休みなくうごいています。
「うん、そうか、そうか、そうだったなあ」
 お父さんはゆめを見るような目でてんじょうを見上げました。
「あなた、どうかしたの?」
「いや何でもないんだ。ただね、きょうのべんとうのことなんだが・・・」
「べんとうがどうかしたの?」
「いや何でもない・・・」
 お父さんはそのまま口をつぐんでしまいました。

 夕食がはじまりました。良太は、きょうのお昼のべんとうのことが気になっていました。べんとうのおかずがうめぼしひとつだけだったほんとうのりゆうを知りたかったのです。あしたのべんとうも日の丸べんとうだったらこまるのです。良太はおそるおそるお母さんに聞いてみました。
「お母さん、きょうのお昼のべんとうのことだけど・・・」
「おべんとうがどうかしたの。さっきもお父さんがおべんとうのことをいいかけて・・・。ふたりとも、どうしたっていうの。おべんとうにごきぶりでも入っていたとでもいうの!」
「いやそうじゃないんだけど・・・」
 となりで妹がくすくすとわらいだしました。良太はかくごをきめました。
「ぼくのきょうのべんとう、日の丸べんとうだったんだ!」
「え!」
 お母さんはかくしていたへそくりを見つけられたように、おどろいた顔をしました。
「なるほど、そうだったのか、はっ、はっ、はっ!」
 お父さんは、大きな声でわらいました。良太のべんとうばこがお父さんのべんとうばこと、大きさも色もそっくりだったから、けさお母さんが手わたすとき、まちがえてしまったんです。
 良太のしんぱいやぎもんはとけました。でも良太の心は晴れません。
「お父さんのおべんとうのおかずはいつもああなんかなあ」
 テーブルの上には良太のだいすきなサバのにつけがありました。でも、良太はむねがつかえてハシをつける気がしませんでした。
「かぜでもひいたの?」
 お母さんのしつもんに良太は答えないで、ふろ場にむかってかけていきました。
「ぼくもきょうからふろ場のおそうじぐらいしよーっと!」