りんごの丸かじり

 ゴン太くんのオバさんは、青森県でりんご園を経営しています。毎年、冬休みになると、オバさんから大きな木の箱が二つ、ゴン太くんのおうちに届きます。今年も、ゴン太くんが一人でお留守番をしているときに届きました。ゴン太くんのお母さんは、お仕事が忙しくて、まだ、おうちに帰って来ていません。ゴン太くんは、お母さんの帰りを待ちかねて、箱を開けてしまいました。箱から出た甘酸っぱいにおいが、家中にただよいました。箱の中には、ゴン太くんのほっぺとそっくりの色をしたりんごが、たくさん入っていました。水で洗うと、キュッ、キュッと音がして、ピカピカ光っています。ゴン太くんは、口を大きく開け、丸かじりしました。りんごは、カリッと気持ちのいい音がして、ゴン太くんの口の中に入りました。ゴン太くんはりんごが大好きです。気がつくと三つも食べていたのです。お母さんが帰って来たとき、ゴン太くんはりんごが届いたことをお母さんに知らせましたが、お母さんは忙しくしていて、りんごもたくさんあったので、ゴン太くんが三つも食べたことをお母さんは気づかずにいました。

 隣のケンくんは、ゴン太くんが毎日おいしそうにりんごの丸かじりをしているのを、うらやましくながめていました。ゴン太くんは一人っ子ですが、ケンくんちは、四人兄弟です。だから、ケンくんちでは、おやつはいつも四つに分けます。りんごは、お母さんがていねいに皮をむいてくれるけど、半分に切って、そのまた半分がケンくんのぶんになるのです。ケンくんは、りんごの丸かじりをしたことがありません。
「ぼくもりんごの丸かじりをしてみたいなあ。きっとおいしいだろうなあ」
 ケンくんはそんな気持ちでゴン太くんをながめていました。

 ある日、ゴン太くんがケンくんのおうちに遊びに来ました。外はもうお日さまも沈んで、真っ暗です。
「ゴン太くんのお母さん、まだお仕事?」
 ケンくんのお母さんは、ゴン太くんにたずねました。
「うん。いつも帰るのおそいんだ」
 ゴン太くんのお母さんは働き者です。それというのも、ゴン太くんのお父さんは、二年ほど前、病気で亡くなったからです。ゴン太くんのお母さんは、ゴン太くんを一人前に育てるまではと、一所懸命になって働いているのです。
「ゴン太くん、お夕飯まだなんでしょ。今日はオバさんちでどう。ごちそうするわよ」
 ゴン太くんのおなかが、グーとなりました。
「でも、今日はお母さんと一緒にファミリーレストランでお食事する約束なんだ」
「ファミリーレストラン? まあ、いいわね。それじゃ、オバさん、おやつでもつくるから、少し待っててちょうだいね」
 ケンくんのお母さんは、そう言うと台所へ消えていきました。しばらくして、ケンくんのお母さんが大きなお皿にりんごをむいて持って来ました。
「さあ、おあがり。ゴン太くんはりんごが大好物だったわね」
 お皿の上には、皮がむかれ、小さく切られたりんごが、花びらのように並べてありました。ゴン太くんは、その一つをつまみました。
「わあー、三日月のようだ!」
 りんごは薄く切られ、真ん中のシンもきれいに切り取られていましたから、横からながめると、ほんとうに三日月のように見えたのです。ゴン太くんは、
「うめえ、うめえ」
 と言って、ほおばりました。ゴン太くんは、まるで羊のように、
「うめえ、うめえ」
 と言っては、次から次へとほおばりました。
「きみんちのりんごは、どうしてこんなにうめえんだ?」
 ゴン太くんはケンくんに向かって聞きました。ゴン太くんが、いつも丸かじりしていたりんごに比べたら、はるかにおいしかったのです。ケンくんのお母さんは、そばでニコニコしながら座っています。ゴン太くんが今、目の前で「うめえ、うめえ」と言って、ほおばっているりんご。それはケンくんのお母さんが、ゴン太くんのお母さんからいただいたりんごだったのです。